ウィークリーレポート・マンスリーレポート
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「為替レートは各国のファンダメンタルズに対応した水準になる」と言われるが、現実世界の為替レートは単純理論のようにはいかない。
為替取引はビジネスで使われており、“ビジネス社会における利用価値”という要素が現実の為替レートに加味される。同程度の経済状態の国が複数あった場合、ビジネス決済で多く使われる通貨とあまり使われない通貨とでは、その為替水準に格差が生じる。多く使われる通貨に対しては「利用多頻度プレミアム」が上乗せされ、単純なファンダメンタルズに応じた価格よりも高い為替レートで取引される。
多くの人に使われる通貨は高く評価されるという法則は現代の通貨に限ったことではない。金貨が商取引決済の主役であった時代でも、純度が均質で大量に鋳造され、国境を越え広範囲で多くの商人に使われる金貨を商人は好んで受け入れた。それ以外のマイナーな金貨は不利なレートで交換された。
最も多頻度で使用された金貨には、その他の金貨に対してプレミアムが付されたのだ。その金貨は、第6回:国境を越えて使われた金貨の歴史で紹介した下図の金貨である。何れも、その時代の経済大国(覇権国)が発行した金貨だった。
多くの場所で多数の人が使うということは、交換しやすいという事を意味する。“交換の容易さは経済活動ではもっとも重要なファクター”だということは、前回のレポートで書いた通りだ(第46回:対価として何を受け取る?を参照)。
2020年現在、最も多くの場所で最も多くの人が使う通貨は米ドルだ。米ドルは覇権国家である米国が発行しており、これらの事実は「米ドルはプレミアム評価されている」ことを示唆している。このプレミアムを基軸通貨プレミアムと呼んでいる。さらに、世界の商人は米ドルを利用する(=借りる、投資する、決済手段で使う)ことによって富を生み出している。通貨に関する重要なことは「退蔵からは富は生まれない」ということであり、通貨は交換の手段として大きな意味を持っているのだ。結果、使われる通貨がより高い価値を持ち、その価値を持つ通貨なら蓄財の手段としての通貨にもなるのだ。
使われる金貨、使われる通貨、このファクターはデジタル・マネーの世界でも同じだ。デジタル通貨に懐疑的であった欧米だが、中国がデジタル人民元に前向きであることが判明すると、欧米(特に米国)はデジタル・マネーに前向きになった。
これはデジタルの世界でもっとも使われる通貨を人民元に奪われると、米ドルが現在享受している基軸通貨プレミアムが減少するという懸念が背景にあるからだ。デジタル・マネーには管理の問題が指摘されているが、Yes/Noの問題ではなく、Whenの問題になったと思われるので要注目だ。
さて、各国の通貨制度は経済の基盤であるが、常に最優先される存在ではない。時には制度か人々の生活か、どちらを優先するのかという局面に遭遇する、、、
それは次回の話
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