三井住友トラスト・アセットマネジメント
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三井住友トラスト・グループ

債券ESG(後半)

事業債(クレジット)におけるエンゲージメント

環境対応や社会問題解決など企業が抱えるESG課題は基本的には株式・債券で共通であることから、債券においても12のESGマテリアリティに基づきエンゲージメント活動を推進しています。そこでは、マルチアセットマネージャーとしての当社の強みを生かし、株式アナリストやスチュワードシップ推進部との協働も実施しています。また、共通課題に加えて、債券分野独自のアプローチに基づくエンゲージメント活動にも注力しています。以下では、その一端をご紹介いたします。

図表1 SMTAMのESGマテリアリティと債券分野独自のアプローチの関係概念図

インテグレーション

ある銘柄のスプレッドが割安で投資魅力度が高い場合、投資時点のESG評価が多少低くてもそれが改善可能と判断すれば、その後のエンゲージメント実施を前提に投資を行う場合があります(図表2の領域B)。例えば、数多くの上場グループ企業を擁するIT企業への投資事例が挙げられます。社債への投資を行うに当たっては、発行体に財務KPIや投資方針の明示がなく突発的な買収や株主還元に伴う予期せぬ財務負担が生じる可能性があることや、グループ企業間の利益相反などをガバナンス面の課題として認識しました。デットIR等の場を通じたその後の対話により、財務KPI・投資方針等の情報開示は一定程度の改善が見られましたが、その後の投資・株主還元等の動きからはさらなるガバナンス評価向上への自信度を深めるには至らず、最終的に保有社債の売却を行いました。

図表2 投資判断におけるスプレッド評価とESG評価の関係

ファイナンス手法についての提言

●SDGs債への取り組み
昨今、さまざまな業界でSDGs債の発行が普及してきましたが、EUタクソノミー等を踏まえた議論や資金使途・目標設定の高度化に関する対話を継続的に実施しています。また、SDGs債への投資後のフォローアップにも注力しています。

図表3 SDGs債の種類と資金使途、およびESG要素の関係

●安定的な起債運営に向けた対話
企業活動のサステナビリティという観点からは、安定的な資金調達基盤の確立も重要なポイントと考えています。SDGs債の発行促進を通じた投資家層の開拓・拡大もその一端です。また、多額の資金ニーズを抱える企業に対しては、社債の発行時期・市場の分散や、財務戦略の明示を通じた投資家理解の促進等についての対話を実施しています。

株式アナリストとのコラボレーション

温室効果ガスを多く排出する産業に属する企業にとって、トランジション(移行)戦略は喫緊の課題であり多額の資金を必要とする一方、将来の成長や社会的価値創出のための事業機会とすることも可能です。こうした本件に関しては、株式アナリストと協業して対話することで、企業に対してより効果的な対話が可能になると考えています。
例えば自動車メーカーA社と以下のようなエンゲージメントを実施しています。

【株式】 アップサイド追求(企業価値最大化へのエンゲージメント)

  • ESG(環境規制)対応を通じた企業成長
  • バリュエーション評価改善(資本コスト低下・安定等)
  • 非財務価値の拡大と将来の財務化

【債券】 ダウンサイド抑制(信用力安定化へのエンゲージメント)

  • ESG(環境規制)対応に伴う財務対応力 ➡ 投資方針・財務規律やキャピタルアロケーション戦略の明示
  • ESG(環境規制)対応の遅れに伴う事業・財務リスク ➡ 電動化対応のロードマップや陳腐化・減損リスクの明示
  • 適切なファイナンスマネジメント ➡ サステナブルファイナンスの活用

図表4 自動車メーカーとの対話フレームワーク