ウィークリーレポート・マンスリーレポート
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新興国に時々発生する通貨危機だが、先進国はそれを他国事だと放置できない。世界経済は相互にリンクしているので、新興国発の通貨危機が金融為替市場を通じて世界中に一気に拡散して自国の景気をも悪化させてしまうと先進国側も認識しているからだ。新興国において通貨危機が起こる背景には現代の代表制民主主義制度が自国の返済能力を超えた過剰な借入を促進させるという側面がある。世界の国々は経済成長を目指している。有権者は政治家に対して「景気を良くして所得を増やして裕福な国になるような政策を実行する」ように圧力かけている。数年に一度の選挙に際し、候補者は実現不可能なバラ色の夢を有権者に公約する。有権者の支持を得なければ当選できないからだ。それが代表制民主主義の偽らざるを得ない現実だ。
当選した政治家は、その国の実力以上のスピードで経済を成長させようと無理をする。次の選挙までに結果をださないと落選してしまうからだ。その結果、とん挫するリスクの高い返済計画に基づいた過大な借金と、そのような巨額の借金が数年おきに借り換えられるという甘い前提での無謀なインフラ整備計画などが実行されてしまう。その結果、膨大な資金を海外から調達せざるを得なくなる。自国内に金がないからだ。
先進国の強欲な投資家も新興国の発行する高金利の債券に目がくらんで短視眼的に投資をする。世界経済は常に変化を続けている。経済がちょっとでも不調になると無謀な計画は破たんし、借金は返済不能に陥る。
身の程知らずの新興国など借りた方が悪いのか?破綻するような新興国に貸した方が悪いのか?この構図は現代の資本主義の負の側面なのだろう。このような通貨危機に際して世界が協調して解決し、将来の再発防止を努力するという国際協調の動きは1980年代から緊密になっていた。リーマンショック時もG7やG20で対応策が講じられていた。しかし、それ以降は協力の度合いが弱まっている。国際協調が成立するには一定の条件が必要だが、21世紀の民主主義国家に財政的な余裕がなくなったこと等を背景にその条件が成立しづらくなったと思われる。
民主主義が定着する以前(第一次世界大戦頃まで)は、国際的な協調(その多くは事後的にしか公開されない)によって救済に必要な資金をかき集めて、金融危機を秘密裏に処理することが多かった。当時の世界経済の規模は小さく、世界のお金は欧州と米国の少数の有力者が牛耳っていた。財閥や王侯貴族などが支配する金融グループは国家予算以上の資金を即座に用意する実力を持っていた。しかも実物経済の周辺を取り囲む金融商品(例:最近のオプションなどのデリバティブを絡めた複雑で巨額の金融商品)の規模は小さかった。金融危機の処理に必要な資金規模は、有力な国の首脳や財閥のボスが秘密裏に協議すればかき集められるレベルだった。
また、当時の国際社会、特に欧州では、王侯貴族は姻戚縁故関係によって相互に結びついており、国家を超えたレベルで政治経済に関する利害関係の類似性を有していた。また国際関係は、王侯貴族が持つ“生き方の同質性”を基盤とする信頼関係(=noblesse oblige、名誉を重んじる )の上に成立していた。だから金融危機に際しては、王侯貴族を中心とした国際協調が可能だった。一方、代表制民主主義と情報公開が定着した現代(特に21世紀)では、他国の金融危機に際して自分たちの払った税金が使われることに対して国内有権者が反対する傾向が強まっている。少数の有力者が資金をかき集めて秘密裏に処理した後に事後報告する事は実行が困難になってきた。
現代の世界経済の規模は大きくなっており、しかも実物経済の周辺を取り囲む金融商品は実物経済の10倍以上にも膨れあがっている。その結果、金融危機を処理するために必要な金額は「手に負えないほどのモンスター」になってしまった。さらには、現代の代表制民主主義の国家の為政者たちは、第一次世界大戦頃までの国際社会の首脳が持っていた「同質性の上に成立する信頼関係(noblesse oblige)」を持っていない。しかも、誰を救済するのかが見えないという側面もある。困窮する国の経済を助けて健全な経済成長を促進するのか、資金を貸し付けた先進国の富裕層の焦げ付きを救済するのか、という論争がある。借りた方が悪いのか?貸した方が悪いのか?に関連する問題だ。
現代の為政者たちは、自国民のご機嫌を取るので精一杯な状況に陥ってしまったのだろう。この状況はトランプ大統領の「アメリカ・ファースト」に始まった自国優先主義的な政策の広がりによってさらに色濃くなりつつある。
お金は様々な問題を起こすものだが、そのお金に変化が起こり始めた、、、
それは次回の話
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