ウィークリーレポート・マンスリーレポート
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資本主義の世界では、規模と利益の拡大を追求することが是とされる。
その目的を達成するためには・・・・
(1)生産性と効率性を改善する
(2)他人の資源(人、物、金)を安価に借用してレバレッジを高めた経営をする
・・・・という手段を採用する。
不換紙幣を基礎とする信用本位制資本主義をベースに経済活動が行われている現代社会では、様々な点で信用力が大きな武器となっている。信用力が高ければ高いほど、経営コストが低くなり、有利な経営ができるのだ。
倒産のリスクが低く業績が順調な企業は、そうでない企業よりも低い賃金水準で労働者を集めることができる。原材料の供給者にとっても支払いリスクが無いので、支払いリスクのある企業よりも安価で供給してくれる。信用が高ければ銀行も安い金利でローンを提供してくれる。
このように高い信用力は、安い賃金、安い原材料、安い金利の源であり、当該企業の生産性と効率性を高め、利益を増大させる。
また、資本主義社会では経済の持続的な成長と企業の長期的な発展は、規模の拡大を実現してくれるので“是”とされる。それがゆえに、ローン金利が企業の利益率を下回るなら、積極的にローン(借金、負債)を活用して業容を拡大すべきだとされている。“借金は善だ”、それが規模と利益の拡大を追求する信用本位制資本主義の基本ルールと考える。
借金して企業を発展させる行動(=リスク・テイク)に対して、資本主義はインセンティブを求める。それはプラスのインフレ率だ。借金元本は時間が経過しても金額は変わらない。インフレ率がプラスであれば、同一金額で買える人、物、金は時間の経過とともに減って行く。3年、5年10年後に返済する借金の元本の実質的な価値は目減りするのだ。インフレは「借金するなら早い方が良い」という気持ちを経営者に持たせることになる。
換言すれば、資本主義は貨幣の価値がゆっくり下がるのは必要であり、貨幣は経済を持続的に発展させるための道具の一つに過ぎないと考えているのだ。世界の多くの国が「経済発展に資するリスク・テイクのインセンティブとして、インフレ率2%を適正な状況」と考えて、そのインフレ率実現に資する経済金融政策に取り組んでいるのも「プラスのインフレ率の必要性」を認識しているからだろう。
このような資本主義社会のルールの下では、現金を抱え込んでリスク・テイクしない人は保有する現金の実質的な価値の目減りというペナルティを受けてしまうのだ。
なお、人間の本性として実質価値よりも名目価値の大きさに喜びを覚える性癖がある。下図①、②、③の物価と給料の組み合わせでは、物価上昇を差し引いた実質賃金の伸び(=実質価値)は何れも+1%で同じだが、多くの人間は「手取り」(=名目数値の)の賃金伸び率が最も大きい①のケースを幸せに感じるようだ。20世紀後半、②の世界が理想と思われていたが、それが多くの国で実現された21世紀の今日、「経済は勢いを失ってしまった」という厳しい現実に直面して苦悩しているのだ。
経済発展に資するリスク・テイク者へのインセンティブとしてのインフレ率の水準だが、「借金の価値が明らかに目減りして見えるレベル」が必要だと思われる。そして世界の指導者たちは“2%以上”だと認識しているのだろう。
銀行は信用創造機能を担っている、無から有を生むのが信用創造だと言われるが、、、、
それは次回の話
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