ウィークリーレポート・マンスリーレポート
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投資家を心理状態で分類すると、強気派、弱気派、心配派に三分類できます。強気派と弱気派に二分する人が多いと思いますが、春山の観察では大多数の投資家は「決めかねている」状態だと認識しています。決めかねている原因は「何となく心配、漠然とした不安」という心理状態です。そういう心理状態の投資家を春山は心配派と分類しています。強気派、弱気派、心配派の割合は、強気派(15%)、弱気派(15%)、心配派(70%)という姿が平常時だと思います。根っからの強気派や弱気派は、そもそも少ないものです。多数を占める心配派の特徴は
1:漠然とした心配や不安を感じているものの、自分で調べて判断することに億劫
自分で手間暇かけて調べて自分で判断するのは面倒だし、そもそも自分の判断に自信がないから自分で決めたくないと感じているのです。
2:皆が儲けているなら私も儲けたい、皆と同じ銘柄に投資したい
自分で考えて他人と違う銘柄に投資して失敗すると自分の無能さを突き付けられます。しかし、皆と同じことをして皆と同じように失敗したら自分の無能力さを感じずに済みます。皆と一緒でいたいという横並び行動は精神的な安心感につながるのです。
3:何かあったら逃げ出したい。恐怖を感じれば値段に関係なく株を売却する。
人間は感情の生き物です。そして人間は心配性です。今でこそ人類は地球上を我が物顔で闊歩していますが、地球上に人類が生まれてからの大部分の時間は小さくて弱い哺乳類でした。だから人間のDNAには、「死ぬな、生き残れ、逃げろ、死ねばおしまいだ」という兎にも角にも(経済算数を度外視して)危機を回避する行動をとるような条件反射が脳に刻み込まれています。その結果、肉体的に生きるか死ぬかとは無関係な投資の世界であっても、大幅で急速な株価の下落時に感じる不安と恐怖が、本当の生死を分ける状況で感じる不安と恐怖と同様に、経済算数判断を思考停止させて条件反射的な危機回避行動(=株の売却)を実行させてしまうのだと、春山は認識しています。
株価の上昇は、多数を占める心配派が徐々に強気派に転じて株式の購入を進めることによって引き起こされます。(下図、A,B,C,Dに示されたような変化)強気派に転じて株を購入した旧心配派の人は、「少し心配だけど保有を継続してみよう。資金があればもう少し買い増ししたい」と発言する傾向があります。一方、まだ株を持っていない心配派の人や弱気派の人は、そんなに株価が上がっていないにも関わらず「もう高くなった、これはバブルだ、崩壊するリスクがある」と発言する傾向があります。
このような発言をポジション・トークと言います。ポジション・トークは、自分の立場の正当化行動です。多くは根拠なき自己正当化(=何となくそう思っているだけ)です。株を購入したことを正当化したい、または非保有であることを正当化したい、という自己正当化の感情を持つことは人間なら仕方がないことです。
ただし、ポジション・トークには弊害があります。見聞きする情報を正しく判断できなくなる、ポジションを正当化するようなバイアスで情報を取捨選択し、投資判断のミスを起こすことです。これに関しては別の回で詳しく話したいと思います。なお、自己正当化は横並び行動と同じように精神的な安心感を得るためのもので、人間なら全員が持っています。それをなくすことは無理なので、日々の情報を判断する際に自己正当化バイアスを補正しながら判断する癖をつけることが大切です。ブログやSNSの読者から春山が受け取るコメントや質問を観察していると、株価の上昇フェイズとコメント・質問との間に面白い相関を感じています。相場上昇初期(下図B)では、「何これ?」という軽い気持ちのコメントや質問が多く、その後の追跡フォローに関しては無視・軽視の傾向が強いです。株価の上昇率は20~30%程度にすぎないのですが、「もうこんなに上がってしまった。だから他の銘柄の方が良いのでは?」と考える人が多いようです。相場上昇中期(下図C)になると、:「今から買っても大丈夫でしょうか?」という質問が増えます。このフェイズになると、株価の上昇率も40~60%程度に達しており、お買い得感は以前よりはなくなりつつあるものの、じりじりと上昇を続ける株価に注目する投資家が増え続けます。
相場上昇初期では「他の銘柄の方が良いのでは?」と考えていた人が、「この銘柄を買っておけば良かった。今からでも間に合うかな?いやもう終わりかな?」と買いたい気持ちを持ちながら悩む状態です。相場上昇終盤(下図D)になると、株価は2倍程度に上昇しており、メディアや証券会社もレポートなどで一斉に推薦します。心配派から強気派に鞍替えする人が急増します。そして受け取るコメント・質問は「投資するならコレですよね! コレなら安心ですよね!」という熱い思いが多くなります。
相場のピーク付近では、心配派から強気派への転換が急速に進み、「これを買っていれば安全だ、みんなも買っている、これっきゃない!」という安心感が急速に広がり、相場が過熱していきます。一方、相当前から保有を続けていた元祖強気派は、相場の過熱感に対応して「ちょっと心配だから、ポジションを軽くしたい」という利益確定の気持ちとともに売りを始めます。こうして、新規強気派の買いと元祖強気派の売りが交錯して、株価の天井付近では売買の出来高が大きく膨らみます。
相当数の心配派が強気になって株を保有したころに何か悪いニュースが出ると、にわか強気派=「旧心配派」は一気に心配派に逆戻りします。こうなると、心配派とにわか強気派は一気に買いの手を引っ込めます。元祖強気派はどんどん売りを進めます。株価は大幅に下がります。(下図E)さらに下がると、にわか強気派が恐怖を感じて売り始めます。この段階では買う人が霧散しています。さらには、下げ相場で儲けようと、空売り勢も参加します。その結果、相場は急落します。下げ相場は、上げ相場の三倍速のスピードで下がるのです。相場急落局面では、ファンダメンタルズと比較した株価の割安感など無視した思考停止の恐怖の逃げ出し売りが増えるので、株価は大幅に割安な水準まで一気に下がり、その直後に理不尽な安値をチャンスととらえる投資家の買いと空売り勢の利益確定の買い戻しも合わさって、短期間で大幅に株価が戻る傾向があります。
本日説明したような株価の上昇と下落のパターンや特徴は、人間が関与する“モノの値動き”に共通して出現します。それは、国が違っても分野が違っても似たようなパターンを示します。それ故、パターン認識を温故知新として活用するチャート分析が投資には有効だと言えるのです。チャート分析は重要な項目なので、複数回に分けて別の回で話したいと思います。普通の人は横並び意識が強く付和雷同する心配派であるが故、投資行動に際して、以下のような傾向があります。
1:自分独自で決断を「しない」性格であり、人より先に動くのが「嫌い」な性格なので、相当値段が上がって時間が経過しないと、購入に納得しません。一旦購入すると、相当株価が下がって時間が経過しないと、諦めて株を売る行動を起こしません。
2:業績の予測や株価の予測に際して、中心価格の上下7%が正しい予測数値であったとしても、心配派は「上5%~下10%」のように、中心に寄せ、かつ弱気側を大きめに考える傾向が強いです。(何故そうなるかは、連載の「株価= EPS×PERシリーズで解説する予定です)
投資家の過半数を占める心配派は弱気に傾いた予測をするわけですから、「決算発表で公表される業績は予測を上回るケースが多くなる」という結果を生みます。過小な事前予測が生む決算時のポジティブ・サプライズの秘密です。
最後にポジション・トークに関して補足します。株を保有していない人が、「もう高すぎる、これはバブルだ、崩壊する」と相場に弱気になっても影響はありません。売る株を持っていないからです。(空売りは別にして)しかし、株の保有者の「ちょっと心配だから、ポジションを軽くしたい」という弱気は株価に悪影響を与えます。現実の売りが来るからです。概して、株を持っている人の方が色々と真剣に考えて判断します。株価変動が自分の財産に影響を与えるからです。株を持っていない人は、真剣さと言う点で劣ります。相場の上下動が自分の財産に影響を与えないからです。株価は全てが同じようなパターンで上下動するわけではありません。上手に株式投資で儲けるには、株価形成要因に応じた上下動の特徴に応じて投資判断しなければなりません。
それは次回の話
次回掲載は5月13日を予定しております。
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