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株価は全てが同じように変動するわけではありません。株式投資で上手に儲けるには、株価の変動を形成する要因を理解しておくことが大切です。春山は、第8回(https://www.smtam.jp/report_column/detail/cat_11/01714/)で説明したようなチェック項目を通過した投資候補銘柄を、企業の性格と株価の値動きの特徴で下図のような4つに分類して、それに応じた売買判断をしています。
春山は4つに分類していますが、その基本は、循環株と成長株という分類(英語では、Cyclical Stock & Growth Stock)です。この循環株と成長株という分類は100年以上も前から株式投資家が使い続けている基本的な分類です。この2分類に派生分類2つを加えて4つの分類で、春山は投資をしています。循環株と成長株という分類は、PBRが高いとか低いとかいう単一基準による単純な分類方法とは異なります。PBRによる分類は「Value株とかGrowth株」などと言われますが、これらの単一基準による単純な分類は、株価の形成要因や株価の動き方による分類ではないので、個別株投資で儲けるという視点では不合格だと春山は考えています。投資家(特に個人投資家)は経営に関与できません。投資家は、その時の株価に投資するのです。ですから、これから投資する銘柄の株価形成要因や株価の動きの特徴に応じた投資判断をすることが重要だと春山は思います。循環株と成長株という分類は、企業の良し悪しとは無関係で、その株式が、どういう株価変動特性なのかを見極め、それに対応した投資判断をするための分類です。
第一に、循環株とはその企業の属するビジネスサイクル(半導体サイクル、鉄鋼サイクル、住宅サイクル、自動車サイクルなど)の変動に反応し、株価が変動する特性があり、総じて景気や政策の変化に影響を強く受ける性格を持っています。景気や政策、業界のビジネスサイクルが利益の増減の多くを決定してしまうので、自社努力による業績コントロールが困難です。
第二に、循環株の多くは業界内の熾烈な競争にさらされています。新製品を出してもあっという間にライバル企業が類似品を出すので、値下げ競争を強いられる宿命にあります(ロボット掃除機、スマホなど)。その結果、提供する商品やサービスの利益率は時間とともに低下する傾向があります。
第三に、提供する商品やサービスのほとんどが絶対的な新製品ではなく、既存の商品&サービスの買い替え、または更新需要なので、価格決定が、ユーザーや顧客寄りになります。企業側は彼らが買える価格で提供するしかありません。
このような循環株に投資する際の留意点は・・・
循環株投資を得意とする投資家は、経験豊かなベテランが多いという特徴があります。循環株の属する業界では、内部構造が出来上がっており、変化に乏しい傾向があります。業界内の売り上げ規模の序列など好景気、不景気に関わらず、変わらないことが多いです。住宅で言えば、1位セキスイハウス、2位大和ハウス、証券で言えば1位野村証券、2位大和証券、のような感じです。そして、過去20~30年の業界の出来事を勉強して経験を積んだ投資家なら、その業界に何か変化が起こった時に「次に何が起こり、その次はどうなるか」を瞬時に理解、判断して売買を実行できます。株価変動の背景や要因が過去20~30年も今も変わらないのですから、ベテラン投資家なら、現在の変化を認識したら、この先3年の株価の進路予想が見えてしまうのです。そういう投資家の判断と売買実行があるので、循環株は変化が起こり始めると、あっという間に1、2年先の収益の増加(または減少)を織り込みながら、株価は一気に上昇(または下落)します。1年で2~3倍に上昇する銘柄や、あれよあれよという間に半値になってしもうものもあります。
循環株の事例として鉄鋼株を見てみましょう。
鉄の価格は業界の好調時は1000ドル、不調時は400ドルといったレンジ内の変動を繰り返しています。空前のバブルだった2007~2008年の資源エネルギー・バブルの時でも1200ドルまでの上昇にすぎません。(※参考:Hot rolled steel sheet)
鉄鋼会社は、景気による需要に基づき決定する鉄の価格をうけ、製造・販売するしかないのです。日本製鉄の株価(下図)は1000円~1万の間で変動をしています。株価は鉄鋼価格を大きく上回る動きですが、これは利益とPERが同時に変動するからです。
予想EPS:100円 × PER:10倍 = 株価:1000円
予想EPS:500円 × PER:20倍 = 株価:1万円
上記のような感じで株価が変動しているのです。そして、過去40年間の長期間の株価を眺めると「大きなレンジの横這い」だと判定されます。
次は成長株です。
PBRが市場平均よりも高い低いで単純に分類するのが「Value株 Growth株」です。PBRが高い株はGrowth株になります。PBRが高い株は、一般的には利益が大幅に伸びている事を背景に株価が高騰していることが多いので、「割高株」と揶揄されたりします。一方、PBRが低い株を「割安株」と言う人もいます。そして、「Value株、Growth株」を日本語訳する際に「割安株、成長株」と訳す場合が多いので、Growth株(成長株)はValue株(割安株)よりもダメな株というイメージを持つ人もいます。しかし、春山が本日説明する循環株・成長株という分類における成長株は、上記の単純な「Value株 Growth株」という二等分の分類とは全く別物です。言葉は同じですが別世界の分類です。まずは、二等分ではありません。株価変動の特性に応じて各銘柄を個別に循環株なのか成長株なのかを判断して分別するので、銘柄構成比が「60:40」とか「45:55」という不等分になります。当然ですが、この割合は国によっても違いが出ます。
【春山が説明する成長株の特徴】
1 成長株とは「斬新なビジネスモデル」で商品やサービスを提供することで、他社のシェアをパクパクと食べながら成長を続ける」企業です。
2 成長株の多くは業界全体の伸び率が高くない業界に出現します。売り上げが10年も、20年も横ばい、せいぜい微増というような業界(例えば、衣料品や家具)に颯爽と現れる革命児です。
3 成長株の提供する商品やサービスに共通することは、「安い、簡単、早い、便利」をユーザーや顧客に提供していることです。
斬新なビジネスモデルには特許があるわけでは無いので、あっという間にライバル企業がマネをして値下げ競争を強いられるという懸念を持つ人が多いと思います。しかし、伸び率が高くない業界は利益率が低いので新規参入企業がほとんど出現しませんし、低利益に甘んじつつ生き残っている企業の経営者は無理をしなくても利益が出ている現状に甘んじていることが多いので、経営リスクを冒してまで斬新なビジネスモデルのマネをしようとは思いません。だから、相当程度のシェアを喪失するまではボーっと過ごしてしまい、気づいた時は斬新なビジネスモデルを引っ提げて颯爽と現れた革命児に、取り返しがつかないレベルまでビジネスを侵食されているのです。
【そのような成長企業に対して投資家は】
1 何時までライバル企業のシェアをパクパクと食べて行けるのか、すぐにもライバルが一念発起して革命時のビジネスモデルをマネして反撃するのではな
いか、そんな不安を抱きます。
2 投資家は、成長企業の業績を予想する際に予想を額面通りに受け取らず、抱いている不安の分だけ割り引いてしまいます。つまり、成長企業の業績予想は過小評価されやすいのです。業績予想が常に過小評価になっているので、株価はいつも割高に見えてしまいます。
3 決算発表では計画通りの業績を達成することが多いので、投資家の懸念を払拭する決算(=ポジティブサプライズ)が多くなります。
上記のような成長企業の事例ですが、家具業界(Home Furniture)のニトリや、衣料品業界(Apparel)のファーストリテイリングがあります。日本の家具や衣料品は国内需要の低迷、安価な海外輸入品の増大により、長年厳しい状況にありました。しかし、この2社は日本を代表する立派な成長企業です。
日々の投資判断に際して、春山は投資対象企業を下図のように3つに分類しています。
1 基本は循環株ですが、2種類に分けています。
①単純循環株:過去と同じ要因で株価が変動しているもので、多くの循環株がこれに該当します。
②「循環+新テーマ」株:過去とは異なる特別な好材料がその企業発生している場合です。
3 成長株:そのまま成長株ですが、正確に表現すれば「パクパク成長株」となります。
4 空中戦株:新規公開された直後の銘柄の多くがこれに該当します。赤字企業が多く、PERなどの株価評価が投資尺度として使えないので、日々のニュースによって株価が大幅に変動します。日中の株価変動でも「午前は+5%、午後は一転大幅反落して−7%」という事態も散見されます。新規公開直後は急騰が続くことが多いです。2~3年後には株価が10倍になっているかもしれませんし、5分の1になっているかもしれません。
個人投資家が投資対象にできる市場は日本以外にも多数あります…
それは次回の話
次回連載は5月26日に掲載予定です。
※当資料は春山昇華氏の個人の見解であり、三井住友トラスト・アセットマネジメントの見解を示すものではありません。また、金融商品取引法に基づく開示書類ではありません。
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