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「第13回:株価の変動特性に応じた分類が王道」(https://www.smtam.jp/report_column/detail/cat_11/01827/)の続きです。
第13回で「春山は循環株と成長株という分類を基本にしている」と述べましたが、今回は、循環株と成長株の株価の動き方の特徴を説明します。
循環株に分類される企業の特徴
1:その企業の属するビジネス・モデル(半導体サイクル、家電サイクル、スマホサイクル、PCサイクルなど)の変動に反応し、株価が変動する特性があり、総じて景気や政策の変化に影響を強く受ける性格を持っています。景気や政策、業界のビジネスサイクルが利益の増減の多くを決定してしまうので、自社努力による業績コントロールが困難です。
2:循環株の多くは業界内の熾烈な競争にさらされています。新製品を出してもあっという間にライバル企業が類似品を出すので、値下げ競争を強いられる宿命にあります。その結果、提供する商品やサービスの利益率は時間とともに低下する傾向があります。
3:提供する商品やサービスのほとんどが絶対的な新製品ではなく、買い替え需要向けなので、価格決定が、顧客やユーザー寄りになります。企業側は彼らが買える価格で提供するしかありません。
その結果、循環株の株価の動きは、下図に示されたように同業他社と同じような動きになります。変動幅は企業によって差が出ますが、方向性は同じになります。
成長株に分類される企業の特徴
1:「斬新なビジネス・モデル」で商品やサービスを提供することで、他社のシェアをパクパクと食べながら成長を続ける企業です。
2:成長株の多くは業界全体の伸び率が高くない業界に出現します。売り上げが10年も、20年も横ばい、せいぜい微増というような業界に颯爽と現れる革命児です。
3:成長株の提供する商品やサービスに共通することは、「安い、簡単、早い、便利」をユーザーや顧客に提供していることです。
颯爽と現れた革命児(=成長株)はシェアを伸ばす一方、既存秩序に安住し続ける同業他社のシェアは侵食され続けます。その結果、成長株の株価の動きは、下図に示されたように勝組の成長企業は上昇、シェア喪失企業達は株価低迷と言う風に全く異なる動きになります。
次に株価がピークを迎えるまでの速度や期間に関して、投資家の行動特性や心理状態という観点から循環株と成長株の違いを説明します。
循環株に投資する投資家
1:その企業および業界の内部構造が成熟段階に達し変化に乏しく、業界の利益の増減を支配するのは、業界のビジネスサイクル、景気サイクルなどと言った全体的な要因なので、過去の相場を勉強すれば今の相場にどう対応すべきかの判断ができます。
2:株式投資の経験が10年以上のベテラン投資家になれば、どういう局面どういう循環株が活躍するかを熟知するレベルになっています。
3:このようなベテラン投資家は、循環株にとって好変化が生じた瞬間に今後3年間に起きる株価や業績の変化に関して「温故知新」的に判断を下して売買行動を実施します。
このような行動特性があるので、循環株に好変化が生じると、「一を聞いて十を知る」的な投資行動が一気に発生して、株価をあっという間に上昇させます。多くの循環株は「底値からピークまでに株価は約4倍に上昇します。そして循環株では毎回同じ様なことが起こるので、循環株投資家は「どうせ今回も4倍になる」のだから、底値から2倍になった株価で買っても損はしないと考えて、どんどんと先回り投資をします。3年先までお見通しと言われるように、循環株投資が得意なベテラン投資家は、その企業のピーク利益を過去データから計算し、それに見合う株価の高値を想定して、投資します。その後は現実の企業利益が想定通りに上昇するかを観察します。
このような循環株投資家の行動特性の結果、株価は業績がピークをつけるよりも随分手前でピークに到達します。上昇期間は、その企業の属するビジネスサイクルによって違いはありますが、「3年で4倍になる」みたいなイメージが典型的な循環株の上昇スピードだと春山は認識しています。しかも上昇スピードは前半が早く、後半は遅いのも循環株の株価上昇の特徴です。
さらには観察の結果、EPSのピークが想定を超えない(上図で言えば、EPS=2,000円)と判断すれば、循環株投資家が計算した妥当な高値(予想EPSの最高値:2,000円×PER:15倍=株価の高値:3,000円)に達すると、さっさと利益確定売りして、他の有望銘柄に乗り換える動きが活発化します。その結果、その後の株価は決算で発表される利益は増えるのに株価は下落するという状況が出現します。この辺が循環株投資の肝であり、面白くも不思議なところです。
下図のチャートは、循環株の一例としての三井金属鉱業とパソニックの超長期の株価チャートです。このように長い期間を観察すれば「循環株投資は、温故知新を生かして投資すれば報われる」ことが理解できると思います。何度も同じ上下動を長年にわたって繰り返しているのですから。
1:「革新的なビジネス・モデルで業界に変革を起こしながら業容を拡大する成長企業と、既存秩序に安住しシェアを侵食され続ける同業他社」という対立構造に成長株投資家は魅力を感じます。
2:しかし同時に、そんな都合の良い状況がいつまで続くのか心配になります。ライバルがビジネス・モデルをマネして優位性が消えるという不安が絶えません。
3:循環株なら同じことを何十年にもわたって繰り返すので過去の知識を現在に生かせます。しかし成長株は前人未到の領域を切り開きながら進んで行くわけですから、過去データがありません。投資家は先が見えないのです。
4:しかもシェアの浸食は何年にもわたってゆっくりと進行するものですから、その間投資家はずーっと不安や心配という状態が続きます。
心理状態
1:将来の業績予想に際して、会社が発表する予想を完全には信用できず、ある程度割り引いた業績予想で考えてしまいます。
2:割り引いた業績予想をベースに株価を見ると、投資家は現在の株価に関して結構な割高感を感じてしまいます。
3:決算が発表されると会社の予想どおり(もしくは予想以上)の決算数値が出てくるので、「すごい! ポジティブ・サプライズだ」と投資家は改めて感心します。そして決算発表後の株価もジャンプ(瞬間大幅上昇)します。
4:しかし決算説明会で会社から発表される業績予想を見ると、またまた会社が発表する予想を完全には信用できず、割り引いた業績予想で考えてしまいます。つまり、振り出しの「1」に戻るのです。
5:この「1・2・3・4」の繰り返しが長期間続くのが成長株の特徴です。つまり過去データのない成長株の利益予想は常に控えめに算定される傾向があるのです。
成長株の場合は、循環株のように「一を聞いて十を知る」先回り投資が一気に発生して、株価をあっという間に上昇させるという事はありません。過去データがないので、「温故知新」的な売買行動が成立しないからです。多くの成長株は、何年もかけて(5∼10年というイメージです)じりじりと上昇を続けてピークを迎えます。株価の上昇ペースは、3年で4倍になるような急速上昇の循環株とは異なり、年率30%程度の上昇が5∼10年続くイメージです。
下図の2個のチャートは成長株の例ですが、循環株とは随分と違った形になっていることが理解できます。
本日述べた循環株と成長株ですが、どちらが良い悪いという話ではありません。「そのような株価の動き方をするのだから、投資家はそれを知った上で行動すれば良いのだ」という話です。さて、投資活動を続けていると上手くいかない時や相場は上がるのに持ち株は上がらずにイライラするような局面に遭遇します。いわゆるスランプですが・・・
それは次回の話。
次回は7月7日に掲載予定です。
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