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高齢の単身者が増えています。内閣府の「高齢者白書(平成29年度版)」によると、1980年の65歳以上の単身者は男性19万人、女性69万人。2015年には男性192万人、女性400万人です。これは調査時期の高齢者の人口に対し、1980年は男性は4.3%、女性は11.2%、2015年は男性13.3%、女性21.1%ですから、年々増えてきていることがわかります。
単身者の場合、お金を使うにしろ貯めるにしろ、自分の裁量で判断していくことでなんとか暮らしていける場合が多いものです。加えて、ある程度の蓄えがあれば、老後生活を楽観視してしまうこともあるようです。
定年退職間近に考えることは、「定年後も仕事を続けるか、きっぱりやめるか」ということでしょう。退職金や今後生活するうえで老後資金が少ないのではと感じたなら、「働く」ことを選択します。ですが退職金が2,000万円、3,000万円と出る会社であれば、それだけで「老後は退職金を切り崩せば、なんとか生活していけるのではないか」と考えがちです。
どのくらい必要であるのかは、単身者であるかどうかに関わらず、その人の暮らし方やもらえる年金額などにより異なります。そこを見誤ってしまうと、のちに後悔することになってしまいます。
再雇用で働いているGさん(62歳、相談当時)は、来年から特別支給の老齢厚生年金がもらえるため、仕事をやめようかと考えています。今の蓄えは退職金を残してあるので約3,000万円。少しずつ切り崩せば、生涯暮らしていけるだろうと思っています。
現在の月の手取り収入は、給与が18.5万円、雇用保険からの高齢者継続雇用給付金が3.4万円の合計約22万円。支出は、マンションのローンが終わっており、住居費は管理費や積立金程度。夕食は「居酒屋やレストラン」で済ませることが多く、10万円を超えるほどに食費がかさんでいます。他に生活にかかる支出を加えると、毎月の支出総額は24万円ほど。およそ2万円ほど赤字を出している暮らしです。
来年からもらえる年金額は厚生年金の比例報酬部分で月額約10万円。今の暮らし方を維持したなら、基礎部分の年金の支給が始まるまでの2年間は、毎月14万円ほどの補てんが必要です。合計額で336万円です。また、基礎部分の支給が始まると、月の年金額は16万円ほどになります。暮らし方を維持するなら、貯蓄から8万円の補てんが必要です。
95歳までの30年分を考えると、2,880万円が生活費として必要です。ここまでで、少なくとも3216万円が老後の生活費として必要な金額の目安となります。単身だから3,000万円も蓄えがあれば大丈夫だろう、安易に考えがちですが暮らし方によってはこのように不足する場合もあるのです。
老後に考えなくてはいけないのは、生活費だけではありません。介護医療費、リフォーム代、または自分が楽しむための支出もあるでしょう。特に単身者の場合は、介護を頼める身近な人がいないことが多いので、外部の方に頼むことになるでしょう。費用はかかると考えておいた方が賢明です。こういった支出も考えると、豊かな暮らしを送るには、生活費に加え500〜1000万円ほどの蓄えがある方が良いと考えられるのです。
単身者の方が老後生活において準備しておくべきことは、生活費を幾分か圧縮し貯蓄からの補填を少なくして、老後資金を長持ちさせる暮らし方ができること。また将来的に可能性がある認知症などによる判断力の低下に対応できるように、任意後見人制度などについて知り、必要に応じて利用を検討しておくことが自分のお金を守ることになります。
Gさんは外食を見直し、65歳の年金額見直しに向けて、また少しでも老後資金の目減りを減らすために、仕事を続けることにしました。厚生年金に加入し続ければ65歳の見直し時にもらえる 。支出を改善すると、貯金から補てんする必要がなくなり、貯金を増やしていくことができるようになるかもしれません。
「そんなに気にしなくても、老後は支出が減るものだ」という人もいますが、家計相談の現場では、意外とみなさん、支出が現役時と変わりません。逆に趣味や時間に余裕が出来ることで支出が増えてしまうような人もいます。老後の暮らしはくれぐれも油断なく、早めに備えていて欲しいものです。
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※当資料内の家計相談は、実際の家計相談を基に構成した創作です。