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定年後も働くことが当たり前のようになりつつあります。2018年の就業率を見ると男性は60~64歳で81.1%、65~69歳で57.2%、70~74歳で38.1%の方々が就業しており、女性は60~64歳で56.8%、65~69歳で36.6%、70~74歳で23.1%の方々が就業しております。就業形態は正社員、委託社員、非正規と様々でしょうが、かなりの高齢者が仕事についていることがわかります。
(出所) 内閣府「令和元年版高齢社会白書」を基に三井住友トラスト・アセットマネジメント作成
定年後の働き方を選ぶとき、多くは会社の雇用延長制度、再雇用制度を利用しますが、定年後は好きな仕事をしたいと考え、転職や事業を起こすという働き方を選択する人もいます。または1年ほど休んでから働きたいという人もいるかもしれません。
定年後、新たな仕事につき、もし失業してしまった場合でもこれまで加入していた雇用保険による給付金を受け取れます。失業後、求職活動をしていることが前提であり、定年時の退職事由により給付期間が異なりますが、65歳までは現役時同様に失業給付を受け取ることが可能です。また、退職後2カ月のうちに「受給期間延長」の手続きをすると、失業給付の受給期間を1年間延長することができます。さらに、該当する資格取得などの教育にかかる費用の一部が補助される「教育訓練給付金」の利用も可能です。ただし、雇用保険を受給すると、65歳以上の方で、老齢厚生年金の特別支給を受給されている場合は、支給は止まってしまいますので注意したいところです。
再雇用制度の下、仕事を続けていたTさん(63歳、相談当時)は、資格を取得し、それを活かした仕事がしたいと思い、退職をしました。65歳以上になっても収入を得られたら老後の暮らしは楽になりますし、新たな生きがいを得るという意味もありました。資格の勉強は教育訓練給付金が利用できる通信教育を利用し、合わせて失業給付を受けながら資格を活かせる職場を探すと良いだろうと考えたのです。失業給付は自己都合での退職のため、給付される日数は150日間です。基本手当日額が4,500円ほどなので、総額67万円ほど受給できます。また教育訓練給付金は講座受講料の20%~最大70%を国が補助してくれるものです。
Tさんはこの雇用保険の手続きをするときに、失業給付を受けると、特別支給の老齢厚生年金が支給停止となることを聞きました。今受け取っている年金額は10万円弱で、繰り下げができないことから、受給していなければその年金はもらえないことになります。金額を比較すると、失業給付額の方が多いので 、失業給付をもらい、終了してから特別支給の老齢厚生年金を受給することにしました。
失業給付からの収入は月に約13.5万円。ここから国民健康保険料や住民税を支払います。在職時は税金、社会保険料を天引きされた手取り収入が16万円強、加えて特別支給の老齢厚生年金が約10万円の合計26万円ほどが手元に入ってきました。今は明らかに生活費が少なくなった状況なので、一緒に暮らす専業主婦の妻(63)ははじめて清掃のパートに出て、生活の維持を図っています。今の収入は二人合わせて約20万円。手取りとしては約16.5万円です。
生活費の不足分は貯金から補填します。毎月の赤字は約8万円です。Tさんが資格を取得し、新しい職場に就職するまで、または失業給付の受給期間が終了するまでは、この状態が続きます。そして2年もしないうちに特別支給の老齢厚生年金は通常の老齢厚生年金に切り替わり、老齢年金の基礎部分の受給も始まります。そうすると毎月の年金収入は夫婦二人分、手取りで21万円ほどです。この年金を繰り下げ受給できると、1カ月につき0.7%増額されますから、Tさんの再就職がうまくいき、1カ月の生活に足りる収入を長く得られるようになることを願うばかりです。
老後は収入不足が不安視されることが多いものですが、暮らし方、働き方、公的なお金の受給の仕方によりカバーできる部分があります。少しずつでも制度や受けられる保障について知り、上手に活用して欲しいと思います。
※当資料は横山光昭氏の個人の見解であり、三井住友トラスト・アセットマネジメントの見解を示すものではありません。また、金融商品取引法に基づく開示書類ではありません。
※当資料の内容は掲載時点における市場環境やこれに関する横山光昭氏の見解や予測を示すものであり、横山光昭氏および三井住友トラスト・アセットマネジメントがその正確性、完全性を保証するものではありません。
※当資料内の家計相談は、実際の家計相談を基に構成した創作です。