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平成12年の法改正で国民年金の方はすでに65歳からの受給になっていますが、厚生年金部分のある方は、65歳になる前に、厚生年金部分の受給が始まります。その開始年齢が徐々に引き上げられ、男性は2020年時点59歳になる昭和36年4月2日~生まれ、女性は2020年時点54歳になる昭和41年4月2日~生まれの人から、65歳からの受給になります。ご存知の方は多いことでしょう。
厚生年金は65歳より早く受給を開始したり(=繰り上げ)、遅く開始したり(=繰り下げ)することができます。「繰り上げ」では年金受給額が1カ月につき0.5%減る一方、「繰り下げ」では0.7%増えます。60歳から受給すると年金額は30%(0.5%×60カ月)減額され、その金額を生涯受け取ることとなります。一方、現状の繰り下げ上限である70歳まで受給開始を先延ばしすると、42%増額されます。長生きを前提とした場合、繰り下げ受給のほうが得なように見えます。具体的な計算で確認してみましょう。
65歳受給開始の場合の年金額をA、亡くなるまでの受給月数をBとします。70歳受給開始の場合、年金額は1.42×A、受給月数はB-60((70-65)×12)となります。双方の金額が同じとなる受給月数は下記の式で計算できます。
A×B =1.42×A×(B-60)
B =(1.42×60)÷(1.42-1)=202.8
受給月数で203カ月以上、年数だと17年以上、つまり82歳まで長生きできるとすれば、70歳に受給開始を繰り下げたほうが受給額が大きくなります。“100年総活躍時代”といわれている今、元気な高齢者も多いことから、繰り下げできる年齢を75歳まで引き延ばそうと審議しているところです。原則の受給開始年齢は65歳で変わらないと思いますが、増額率が上がる可能性はあるでしょう。
一方、繰り下げを考えていたところ、家計状況の変化でお金が必要になるケースもあります。年金の請求は5年の時効がありますが、その範囲なら遡って65歳以降の年金を一括して請求できます。増額はあきらめることになりますが、まとまった資金を確保することが可能です。
退職金制度がない会社に勤めていたKさん(62歳 契約社員)と妻(67歳 パート)は、老後資金をうまく貯めることができませんでした。蓄えは800万円ほどあり、今のところ手をつけてはいませんが、生活費に使い始めてしまうとあっという間になくなるだろうという危機感を持っています。現在の手取り収入は、Kさんが約21万円、妻が約12万円です。生活費は現状で月に30万円ほど。多少の余剰金ができるはずでしたが、最近になり収入が少なく生活に困っている子どもから奨学金の返済、総額100万円ほどを引き継ぎ、家計が苦しくなりました。
妻は年金受給ができる年齢ですが生活費としての収入があったことや「繰り下げ受給をすると年間受給額が増える」と聞いていたため、まだ受給の手続きをしていません。老後資金が少ないと感じていたため、少しでも増やしたいと考えたのです。奨学金を引き継ぎ、老後資金から一度に返済してしまうことも考えましたが、蓄えを減らしてしまうことは不安です。でも、毎月の返済負担が厳しく、ご夫婦で考えたすえ、妻の年金を受け取り始めることにしました。
手続きをする前に年金事務所に相談すると、急にお金が必要になった場合には、これまでに受給するはずだった年金をまとめて受け取り、それ以降の分は予定通り受給していく方法があることを聞きました。年金が増えないことは残念ですが、現状を変えずに安定した暮らしを維持するため、「過去の受給分を一度に受け取る」ことを選びました。妻がもらえる年金は月に約10万円。それが30カ月分溜まっていたので、約300万円をまとめて受け取ることになります。その一部で奨学金を返し、残りは蓄えに加えることにしました。
もし、繰り下げで受け取っていれば月に12万円ほどの年金受給となり、総額としては多くなったでしょう。ですが、働くこともいつまで継続できるかわかりませんし、仕事をこなせずに減給することもありえます。そういった不安定な中で無理をするよりは、スッキリ返して、安定して暮らすことを選んだのです。年金の繰り上げ、繰り下げなど色々な話題がありますが、どれが正解かはその人によるものです。ただ、いざとなった時に困らないよう、受給方法はある程度知っていてほしいですし、困った時は年金事務所に相談すれば、最善な方法を選べる可能性があることを理解しておきましょう。
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