ウィークリーレポート・マンスリーレポート
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コロナ禍で世界の人々は感染症の脅威を目の当たりにしました。特にワクチンや治療薬がないことがどれだけ無力なのかを痛感したはずです。薬剤耐性(AMR;Antimicrobial Resistance)はこれまで感染症治療に用いられていた抗菌薬が効かなくなることです。薬剤耐性を持った細菌による感染が拡大した場合には手の打ちようがありません。親知らずの抜歯から臓器移植、がんの化学療法まで現代医療のあらゆる場面において有効な抗菌薬がなければ、単純な感染症でも死に至る可能性があります。前述の通り、現状において薬剤耐性菌による感染によって世界で年間約70万人、日本だけでも年間約8千人が死亡していますが、このまま何も対策を講じなければ、2050年にはがんによる予測死亡者数を上回る1,000万人超の命が世界で奪われると予測されています。
薬剤耐性問題は治療効果の高い抗菌薬が過剰に使用され、一部の生き残った細菌が耐性を獲得して感染拡大することによって起きます。安易に抗菌薬が処方されてきた悪しき医療慣行が薬剤耐性問題の背景にあり、薬剤耐性問題の改善・解決のためには抗菌薬の適正使用が非常に重要です。
また、薬剤耐性菌が発現した場合にはその耐性菌に有効な新規抗菌薬を開発して治療に用いる必要があります。世界初の抗生物質ペニシリンが発見されて以来、抗菌薬とそれに対する耐性菌の発現が繰り返されてきました。これまでは耐性菌登場のたびに有効な新規抗菌薬が開発されてきましたが、先進国における死因が感染症からがん等非感染症が中心となった上、抗菌薬の薬価は相対的に低く、感染拡大期も予想できないことから将来的な収益性が見込めないため、世界のバイオ・医薬品企業は抗菌薬の研究開発から手を引いており、世界的に抗菌薬開発活動が衰退しています。もしもの時に有効な治療薬がないという最悪のシナリオが現実のものとなる可能性が高いのです。
新たな耐性菌への脅威に備えるためには、各国政府を中心とした国際的な抗菌薬開発の枠組みを通じた資金支援によってバイオ・医薬品企業に新たな抗菌薬の研究開発を促す制度(プッシュ型インセンティブ)とともに、各国政府が必要な時に抗菌薬の供給を受けられる定額支払い制度(プル型インセンティブ)の導入によって、バイオ・医薬品企業が感染拡大の有無にかかわらずに将来の利益獲得を見込めるような体制を早急に確立することが求められています。
さらに薬剤耐性問題を複雑にしているのは、抗菌薬が人の感染症治療に用いられるだけでなく、畜産業で家畜等の感染症予防のために飼料に混ぜられて使用されていることです。従って、薬剤耐性問題の改善・解決のためには人と家畜等への抗菌薬の使用管理を一体的に強化することが必要です。こうした取り組みはワンヘルス・アプローチと呼ばれています。
当社はこうした薬剤耐性問題に関して前述のATMや水産・畜産業に取り組むエンゲージメント団体FAIRR(Farm Animal Investment Risk & Return)など国際的なイニシアチブを通じて、製薬業界や畜産業界を中心に広く働きかけています。特にFAIRR関連のInvestor Action on AMRというイニシアチブでは本邦運用機関として唯一の創設メンバーとなり、薬剤耐性問題の重要性を世界に発信しています。
また、当社は2021年10月27~28日に開催された第8回日経・FT感染症会議に機関投資家として初めて参加しました(議長は政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長)。同会議では新型コロナ感染症の第6波や新たな感染症に備えるために主として8つの議題が話し合われ、その総括が2021年10月30日の日本経済新聞朝刊にて「東京感染症ステートメント2021」として発表されました。
当社は同会議においてAMR(薬剤耐性)部会報告に登壇し、機関投資家という立場から見たプル型インセンティブ制度実現の重要性に加えて、インパクト投資、ESGテーマに基づくトップダウン型エンゲージメント活動、国際的なイニシアチブ活動を通じた薬剤耐性問題の改善・解決に向けた積極的かつ持続的な取り組み、について発表しました。
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