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はじめに
2024年1月からNISAがリニューアルし、新NISAとなりました。この新NISAでは、非課税保有期間が無期限となり、非課税保有限度額もアップして、より投資がしやすくなります。特に、新NISAの「つみたて投資枠」は年間投資枠が旧NISA(2023年までのNISAを指します。以下、同様)の3倍に当たる120万円に増えました。
一方で、その他の資産形成方法として「iDeCo(個人型確定拠出年金)」という制度もあります。2つの制度の違いはどこにあり、どちらを優先すればよいのでしょうか? それぞれの特徴やメリット、注意点したい点、活用法をわかりやすく解説します。
【目次】
1. 新NISA、iDeCoってなに?
2. 新NISAとiDeCoの違い
2.1. 対象商品
2.2. 利用可能期間
2.3. 年間投資枠
2.4. 対象年齢
2.5. 税制メリット
2.6. 引き出しのタイミング
3. 新NISAとiDeCoはどちらを優先するべき?
3.1. どちらを優先するかは人によって異なる
3.2. 新NISAが向いている人
3.3. iDeCoが向いている人
3.4. 新NISAとiDeCoの併用も視野に入れる
4. 新NISAとiDeCoについてのよくあるご質問
4.1. 新NISAとiDeCoはどうやって始めるの?
4.2. 新NISAとiDeCoの注意点は?
4.3. 初心者向けに新NISAとiDeCoの併用の仕方を教えてください
5. まとめ
新NISAとiDeCoの違いを解説する前に、まずはそれぞれの制度の概要をおさらいします。
NISAとは、投資で得た収益にかかる約20%の税金がゼロになる非課税制度です。2024年1月からは制度が抜本的に改正された、新NISAがスタートしました。新NISAでは年間投資枠が「つみたて投資枠」120万円、「成長投資枠」240万円まで大幅増額され、非課税保有期間も無期限となります。*1
新NISAについてさらに詳しく知りたい方はこちら!
*1 出所) 金融庁「新しいNISA」
一方、iDeCoとは私的年金の制度で、自分で決めた掛金(拠出額)を自分が選んだ商品で運用し、資産形成する制度です。掛金は65歳(※一定の条件があります)になるまで拠出可能で、60歳以降に老齢給付金として受け取ることができ、公的年金と組み合わせることで、より豊かな老後生活を送るための一助となります。iDeCoの場合、新NISAと同様に運用益にかかる約20%の税金がゼロになることに加え、掛金や給付金についても税制上の優遇が受けられます。*2
*2 出所) 厚生労働省「iDeCoの概要」
新NISAとiDeCoは、投資で得た収益が非課税になるという点は共通で、いずれも老後の備えや資産形成に向けて長期的な資産運用をバックアップする役割を果たします。ただし、以下のようにいくつか違う点があります。
表1
新NISAとiDeCoの違い一覧*1
少額投資非課税制度 新NISA |
個人型確定拠出年金 iDeCo |
|
---|---|---|
対象商品 | 【つみたて投資枠】 長期の積立・分散投資に適した一定の投資信託※1 【成長投資枠】 上場株式・投資信託等※2 |
投資信託・定期預金・保険商品 |
利用可能期間 | 無期限 | 原則、65歳未満まで拠出可能※3 |
年間投資枠 (非課税投資枠) |
【つみたて投資枠】 120万円 【成長投資枠】 240万円 |
加入条件により 14万4,000円~81万6,000円 |
対象年齢 | 18歳以上 | 20歳以上65歳未満※3 |
税制メリット | 運用益が非課税 | ・運用益が非課税 ・掛金分が所得控除 ・受取時も控除対象※4 |
引き出しのタイミング | いつでも可能 | 原則、60歳まで不可※5 |
口座管理手数料 | なし | 加入時の手数料と月々の手数料がかかる (運営管理機関により異なる) |
※1 金融庁の基準を満たした投資信託に限定
※2 ①整理・監理銘柄②信託期間20年未満、毎月分配型の投資信託およびデリバティブ取引を用いた一定の投資信託等を除外
※3 iDeCoの老齢給付金を受給されている/されたことがある方、公的年金を65歳前に繰り上げ受給された方はiDeCoに加入できません。第2号被保険者以外で60歳~65歳未満の方は国民年金に
任意加入していることが条件です。
※4 一時金受取りの場合は「退職所得控除」、年金受取りの場合は「公的年金等控除」となります。
※5 60歳時点での通算加入者等期間が10年未満の場合、最高65歳まで受給を開始できる年齢が繰り下がります。60歳以上で初めてiDeCoに加入した方は、加入から5年を経過した日から受給でき
ます。
※上記は主な特徴を示したものであり、全ての特徴を網羅したものではありません。
※上記は2024年1月末現在の情報に基づいて作成したものであり、今後、税制等は変更となる場合があります。
*1 出所)各種資料を基に三井住友トラスト・アセットマネジメント作成
新NISAの対象商品は、「つみたて投資枠」「成長投資枠」でそれぞれ違います。「つみたて投資枠」の対象は、長期の積立・分散投資に適した一定の投資信託やETFに限定されています。「成長投資枠」は、株式や、一部商品を除く投資信託などです。
一方、iDeCoの対象は、投資信託のほか、定期預金、保険商品が含まれます。元本確保型の商品がある点は、新NISAとの違いといえるでしょう。
なお、いずれも購入できる個別商品は、各金融機関によって異なります。
新NISAは無期限、iDeCoは原則として65歳になるまで投資可能です。
新NISAは、「つみたて投資枠」が120万円、「成長投資枠」が240万円です。どちらも旧NISAより大幅に増額されました。一方、iDeCoの年間投資枠は、各人の加入条件によって、14万4,000円~81万6,000円と異なります。
新NISAは18歳以上の成人、iDeCoは20歳以上65歳未満が対象です。
どちらも、運用で得られた収益にかかる約20%の税金がゼロになります。
さらにiDeCoでは、毎月の掛金全額が所得控除の対象となり所得税や住民税が軽減され、受け取り時にも控除が受けられます。ただし、所得水準や運用結果、資金の受け取り方によって節税メリットの大きさが変わることには注意しましょう。
新NISAは、好きなタイミングで売却して資金を引き出すことが可能です。一方、iDeCoはあくまでも老後のための私的年金という位置づけなので、原則として60歳になるまで引き出すことができません。
非課税制度という点では共通する新NISAとiDeCoは、どう使い分ければよいのでしょうか?
新NISAとiDeCoのどちらを優先するかは、その人の資産状況や運用スタンスなどによって異なります。以下に、それぞれに向いている人の特徴を挙げておきますので、自分にはどちらが適しているのかを確認しておきましょう。
新NISAが向いているのは、次のようなタイプの人です。
・ 退職金やボーナスなど、まとまった資金で資産運用をしたい人
・ 幅広い商品の中から自分に合ったものを選んで運用したい人
・ 老後を迎える前に必要な資金を準備したい人や、急な出費に備えたい人
iDeCoは、掛金の上限額が最大でも年間81万6,000円ですが、新NISAでは年間投資枠が最大360万円であり、よりまとまった金額での運用が可能です。さらに、新NISAの「成長投資枠」では、株式や多数の投資信託なども対象であるため、幅広い商品の中から選択することができます。
また、新NISAはiDeCoと違っていつでも引き出せるので、子どもの教育資金や住宅資金など、老後を迎える前に必要な資金を準備したい人や、急な出費に備えたい人にも適しています。
一方、iDeCoが向いているのは、次のようなタイプの人です。
・毎月の掛金の所得控除を受けたい人
・ 元本確保型の商品で運用したい人
・ 老後資金の準備をしたい人
iDeCoは、毎月の掛金が全額所得控除されるので、より節税効果を得たい人はこちらを優先するとよいでしょう。
また、iDeCoの場合は、元本確保型の商品も対象となっているため、節税メリットを受けつつ元本割れのリスクを取りたくない人にとっては、よい方法といえるでしょう。ただし、iDeCoは運営管理手数料がかかる場合もあるので、注意が必要です。
さらに、確実に老後資金を準備したい人にとっては、原則として60歳まで引き出せないことが、むしろメリットと捉えることができるでしょう。
新NISAとiDeCoはどちらか一方を選ばなければならないというわけではなく、併用も可能です。NISAが拡充されたことで、「iDeCoをやめて新NISAに切り替えよう」と考える人もいるようですが、それは早計かもしれません。
iDeCoには掛金が全額所得控除されるという税制上のメリットがあるため、特に所得が高く、税金を多く払っている人ほど、その恩恵を手放すのはもったいないわけです。
できればiDeCoの積み立ては継続しつつ、60歳までに引き出す可能性がある資金は新NISAに回すなど、ライフステージや資金の性格によって、使い分けるとよいでしょう。なお、新NISAとiDeCoは両方同じ金融機関でも、別々の金融機関で運用してもかまいません。
最後に、新NISAとiDeCoについて、よくあるご質問と回答を紹介します。
新NISAを始めるには、自分で選んだ金融機関にNISA口座を開く必要があります。NISA口座は1人につき1金融機関、1口座限定です(ただし、年単位で変更は可能)。金融機関によって、商品の種類や手数料などが異なるので、よく比較検討して開設しましょう。なお、既に旧NISAの口座を開いている人は、その金融機関に自動的に新NISAの口座が設定されるので、手続きは不要です。
一方、iDeCoを始める際は、金融機関などの運営管理機関を通じて、加入申出書を国民年金基金連合会に提出する必要があります。やはり金融機関によって対象商品や手数料が異なるので、比較検討が必要です。なお、iDeCoは各人の加入資格区分(国民年金の被保険者種別や勤務先の企業年金の違いなど)によって、掛金の限度額が異なります。自分の限度額を調べたうえで、月々5,000円以上1,000円単位で掛金額を設定し、商品を選びましょう。
新NISAもiDeCoも運用の対象は主に投資商品で、基本的に元本保証がありません(iDeCoの元本確保型商品を除く)。運用がうまくいけば運用益が得られますが、うまくいかなければ元本を下回ることもあります。各商品にはそれぞれ異なるリスクがあるので、投資する前にきちんと確認するようにしましょう。
さらに、iDeCoは、掛金が全額所得控除されますが、これは自分で所得税や住民税を納めている人しか恩恵を受けられません。したがって、夫の扶養家族となっている専業主婦などの場合、その部分の節税効果は得られないので、夫がiDeCo、妻が新NISAなど、世帯内で使い分けるのも一案です。
初めて資産運用を始める場合、まずは毎月無理のない金額で積み立てを始めるのが第一歩です。節税効果を狙うならiDeCoの掛金の上限額を確認し、その範囲内で積み立てるか、新NISAの「つみたて投資枠」を利用して積み立てる金額を設定します。また、ボーナスなどのまとまったお金が入ったときに、その一部で新NISAの「成長投資枠」の利用を考えるとよいでしょう。そうすることで、老後資金を確実に増やしながら、もしもの場合に使えるお金も準備することができます。
以上、新NISAとiDeCoについて、その特徴や違いを見てきました。
自分の状況と照らし合わせて、どの方法が合っているのかを検討してみてはいかがでしょうか。
いずれも、貴重な税金の優遇制度なので、上手に使って将来に向けた資産形成に役立てましょう。
新NISAについてさらに詳しく知りたい方はこちら!