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第11回:株価=EPS×PER(その1)(https://www.smtam.jp/report_column/detail/cat_11/01783/)で「予想利益の変動を反映して株価も変動する」と述べました。しかし、企業が発表する予想利益や証券会社のアナリストが発表する予想利益に変化がなくても株価は変動をします。その背景にあるものを解説したいと思います。
株価を形成する要因の中で最も重要なことは、未来予想図が今日の株価を形成する、という基本ルールです。つまり投資家が思い描く企業の未来図の変化に対応して、今日の株価が動くのです。この基本を解説しますと、会社が発表する利益の修正、証券会社のアナリストによる予想利益の修正、これらによって投資家が思い描く企業の未来図が変化し、それを反映して今日の株価が変動します。一般的に、将来の未来予想図(売り上げ、経費、利益)をベースに株価が形成されていると言われていますが、個人的には通常時は1年程度先の未来予想図をベースに株価が形成されていると思っています。
下図をご覧ください。1年後の予想EPSは121円です。そして、この株の平時のPERは大体15倍です。そうであれば、株価は「121円×15倍=1,815円」という株価になります。もう少し詳しく言い変えると、「現実の株価は1,815円を中心に揺れ動く」となりますが、単純化するために1,815円とします。なお、PERに関しては、第9回:ファンダメンタルズとチャート(https://www.smtam.jp/report_column/detail/cat_11/01740/)で解説しておりますので、ご覧ください。
下図は、様々な予想EPSにPERを乗じて計算される株価水準を示しています。
上記のように平時では「今日の株価=1年後の予想EPS×PER」という関係で市場がバランスします。そしてバランスした直後から様々なニュースが投資家の目や耳に飛び込んで来て、その企業の未来予想図を変化させます。その結果、株価は一カ所に留まらず、常に動き続けるのです。例えば、投資家を楽観させるようなニュースが飛び込んで来て、多くの投資家の思い描く未来予想図が大幅に楽観方向に変化したとします。それは株価にどんな影響を与えるでしょうか?そしてそれはどんなプロセスなのでしょうか?未来を楽観した投資家の心に起こる変化は次のようなものです。
1:足元の業績は絶好調だ。この調子だと1年後はもとより、2、3年後も好調な業績が維持される可能性が大きいと思う。
2:適正価格は121円×15倍=1,815円と言われているけど、2年後の予想EPS:133円、3年後の予想EPS:146円も楽々達成するだろう。
3:今日1,815円以上の割高な価格(例えば、1,890円)で買っても、「133円×15倍=1,997円」、「146円×15倍=2,196円」という状況はきっとやって来るはずだから、損をすることは無いだろう。
このように投資家は楽観的な未来予想図を信じて、先回り投資の姿勢を徐々に強めていきます。その結果、今日の株価の均衡点が1,815円から1,997円に向かって上昇を始めるのです。楽観した投資家は「平常よりも遠い未来(=不確実性がより高い)」を信じるようになります。このような楽観状態に対し、“リスク許容度が増した、ガードが下がった、強欲になった”などと言われます。
以上が、楽観する投資家の説明ですが、これには別の見方もできます。それは市場が織り込む未来予想図(=予想EPS)には変動が無く、強気になった投資家が株価の評価(=PER)を引き上げた、という見方です。メディアや証券会社の多くの見方はこちらです。
この違いは、楽観した投資家が株価の上昇を引き起こす要因に関して、予想EPSとPERのどちらに重点を置いて考えるかの違いです。どちらも間違いではありません。二種類の説明の仕方がある、と考えるのが妥当だと思います。
さて、投資家が楽観するという状況は、「良い状態が長期間にわたって継続する」という場合に加え、「今は悪いけど、この先は元の良い時代に戻ってくれる」と信じる時にも出現します。下図に示されたように、投資家は足元の悪さを無視し、その先まで飛び越えて株価を判断します。そしてそれはどんなプロセスなのでしょうか?
1:今は経済や業績に悪影響を与える大事件が起こっているので今期の予想業績はボロボロだけれど、来期は悪材料が消えて経済や業績がV字回復すると確信できる状況になってきた。
2:今期業績で株価を考えるのではなく、2年後ではあるが来期の予想業績で株価を考えるべきだ、という思考プロセスになるのです。
このような状況がまさに2020年に起こりました。
下図のグラフは2020年9月29日から2021年2月16日までの日経平均株価指数と予想EPS(会社発表)の推移です。
2020年はコロナショックで企業業績はボロボロになり、会社発表の2021年3月期の予想EPSは大幅ダウンとなりました。しかしコロナの収束を信じた投資家は株を投げ売りしませんでした。そして10月になると米国と中国の7~9月期の経済がV字回復をしているデータが出てきたこと、およびコロナワクチンの完成が見えてきたこと、これらを契機に、「今期の予想業績はボロボロだけれど、来期は悪材料が消えて経済や業績がV字回復すると確信できる状況になってきた。それならば、今期業績で株価を考えるのではなく、2年後ではあるが来期の予想業績で株価を考えるべきだ」と判断するようになりました。それが、11月以降の株価の大幅上場の開始(下図①部分)となったのです。その後年明けからは、多くの企業が、米中の景気回復を背景として、既に発表されていた予想EPSを上方修正する動きが続出しました。(下図B部分)投資家の判断は報われたのです。
2021年の2月16日現在の投資家が思い描いているのは、下図のような将来の業績回復プロセスです。
1:アベノミクス時代の予想利益の上昇トレンドから、現状は大幅に下振れしている。
2:1年程度のV字回復では元のトレンドには到達できない。
3:米中の景気回復は2022年も続くだろう。
4:それを背景に、日本株の2022年も予想EPSのV字回復が続けば、アベノミクス時代の上昇トレンドに戻るだろう。
5:短期的には割高な株価水準だが、だからといって株を売却するのではなく、未来を信じて保有を継続しよう。
さて、今日は2021年5月21日です。約3カ月経過したのですが、投資家の想定や期待は実現したのでしょうか?
下図は2020年9月29日から2021年5月21日までの予想EPSです。
2021年2月16日以降の予想EPSは大幅上昇しましたが、株価は横ばいです。
この推移を「株価=予想EPS×PER」の式で解説すれば、予想EPSは上昇したもののPERが低下したので株価はほぼ横ばいとなった、ということになります。
何故、予想EPSは上昇したけどPERが低下したのか?
二つの理由があります。
第一の理由は、コロナ以前の2018年、2019年のPER水準と比べ高くなり過ぎてしまったことです。コロナ後の未来予想図(業績回復)を期待しすぎて、株価が大幅に上昇した結果、PERがコロナ前の水準に比べ高くなり過ぎてしまいました。その結果、投資家はPERの割高状態が解消するまでは株を買い上がることを中止したのです。
第二の理由は少し複雑です。日経平均株価の構成銘柄で2番目に大きなソフトバンクの予想EPSが大幅に上方修正されました。日経平均の予想EPSの5月の大幅上昇のほとんどはソフトバンクによるもので、ソフトバンク以外の日経平均構成銘柄の予想EPSはあまり増えていないのです。
それを認識している投資家は、ソフトバンク以外の日経平均構成銘柄の株を買い上がることはしませんでした。そして当のソフトバンクは株価が下落しました。その背景は、「今回の好決算以上の内容を来年以降も継続することは難しいだろう」と判断した投資家の利益確定売りが増えてしまったと、春山は認識しています。
このような二つの理由により、日経平均株価指数は横ばいになっているのです。株式投資で銘柄の選択をする際に、株式全体をいくつかのグループに分けて投資判断することが良く見られます。どういうグループ分けが投資に役立つのか…
それは次回の話
次回の掲載は6月23日を予定しています。
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